Gallery-Back Yard-へようこそ!
「あ、はい」


「バレリーさま、リヨンです。
失礼します」


リヨンがほどなくドアを開け入ってきた。


「白シャツと黒のズボンですが、よろしいですか?」


「それで大丈夫だよ。わざわざありがとう」


「いえ、お仕事ですから」


頼りなく微笑んで、畳んであった服を丁寧にベッドへ置いて
お手伝いします、と手を出してきた。


「あっ、いやっ、そこまでしてもらわなくても……」



「遠慮なさらず。お仕事ですから」



あくまで仕事、を通す彼になんとなく逆らいづらくて
結局は手を借りることにした。



ずっと被っていたくすんだ色の帽子を脱いで
シャツのボタンに手を掛ける。



別にこのままでいいのに……
貴族っていろいろ大変だなぁ。


取り留めもなくバレリーはそんなことを思っていると、
背後から遠慮がちに「あの」とか細い声がかかる。


俯き加減のリヨンは落ち着きなく
視線を泳がせながらこちらを伺っていた。


庶民の自分でも一応主のお客さんだし、気を使ってるのかなと思い「何?」と先を促してやる。



「さっきの……
絵画の修復師をなさってるってお話なんですが……」



「あ、うん。
ほんとはサロンから買い付けをやってる画廊が本業なんだけど、
それだけじゃ経営が苦しいから
今は修復師が本業みたいなものかな」



絵画の品評や売買をするサロンでは
無名で二束三文の絵も多く
いい絵を買い付けて高値で転売するのが
Gallery Back Yardだ。



しかし
転売だけではやっていけないのが辛いところで。


近所や知り合いから頼まれた絵画の修復作業の副収入に
自ずと頼らざるを得ない。



「それがどうかした?
何か……
治してほしい絵でもあるの?」



新たなシャツに袖を通す手を止め、
バレリーは低く問うた。



びくっと
震えた肩をごまかすように
リヨンはふるっと一度首を振った。


「いっ、いえ……
そういったわけでは……」
< 7 / 14 >

この作品をシェア

pagetop