紡歌<ツムギウタ>
「……何とでも言えば? 今度の試合で結果が出るんだから。それに、今回は強化チームの監督も見に来る。絶対負けないから!」
真奈は嫌悪の目で亜耶を睨みながらそう言うと、さっさと校門に入り、校舎の中に消えていった。
亜耶は鼻をふんと鳴らし、真奈の後ろ姿を見ていたが、時計台を見て顔色を変えた。
「やばい! 講義!」
亜耶は急いで講義室へと走り出す。
やっと講義室に辿り着いた時、開いたままのドアから漏れる教授の声が聞こえた。
――よかったぁ。講義、まだ終わってない。
亜耶は開いていたドアから静かに講義室に入り、空いている席を探し出す。ようやく席を見つけ、その席に向かおうとしたその時、後ろから声が聞こえた。
「やっと見つけた。探したわ」
その声に振り向いた途端、亜耶は絶句した。そこには、講義室に似合わない滑稽な格好をした女が立っていたのだ。
十七歳程度で黒いローブに身を包み、大きな鎌を持っている。その女の横には、黒い羽根と三つの尻尾を持つ黒猫が飛んでいた。
「中島亜耶さん。あなたは死にました。在るべき所、天に還りましょう」
亜耶はしばらく茫然と突っ立っていた。彼女の一語一句が全く理解できない。
「……なに、宗教の勧誘? 講義中にそんな事してたら怒られますよ」
亜耶が怪訝な目で女を睨みながら注意したが、女は無表情のまま淡々と言葉を続ける。
「私は死神、キズナ。迷える魂を導く者」
落ち着いた声で話すキズナの横から、黒猫が元気に言った。
「ツキが天まで連れてったげるよ! ツキの尻尾、天への道を教えてくれる!」
人懐っこく近寄る黒猫とは対照的に、亜耶は驚きと恐れの入り交じった顔で後ずさりした。
「ね……猫が、しゃべった……?」
「猫じゃないよ! 死神の使いのツキだ!」
ツキはひどく機嫌を損ね、毛を逆立てた。
「……とにかく、あなたは死んだ。なのに、魂が天に向かわない理由は何?」
キズナは真剣な顔で亜耶と向き合いながら尋ねたが、亜耶には全く訳がわからない。
――この人、狂ってる。黒猫に小細工までして……こんな人に関わっちゃダメだ。