紡歌<ツムギウタ>
キーンコーンカーンコーン……
HR開始を知らせるチャイムが鳴ったとき、絆は息を切らし、自分の机にへばりついていた。
隣に紘乃はいない。紘乃は別のクラスなのだ。
「絆、おっはよー!セーフじゃん。よかったね!」
後ろの席にいた友人の香奈<カナ>が、絆の背中をつつきながら声をかけた。
香奈は校則違反の茶色い髪を頭のてっぺんで一つに結び、器用に丸め込んでお団子を作っていた。クラスのリーダー格で、とても美人だ。
「ギリギリ。てか、あの上り坂キツすぎだって! 紘乃は途中の墓地で気味悪いこと言い出すし」
絆はふぅーっと一息ついた後、机にへばりつけていた体を起こした。
「気味悪いこと?」
香奈が大きい目をさらに大きく開け、丸くして尋ねた。
「うん。血まみれの女の人が、こっち見て立ってたんだって」
「げぇ! それ、ヤバイじゃん! コワッ!!」
香奈は身震いし、前に乗り出していた身を一気に引いた。
「でしょー? 紘乃って霊感あるらしくてさ、こんなのしょっちゅうだよ」
絆はそう言うと、気だるそうな顔をして机に頬づえをついた。
学校は楽しいから好きだ。……授業中を除けばだが。
友人達とたわいのない話で盛り上がり、お昼にはおいしいお弁当が待っている。
しかし……絆のそんな日常は、ある日を境に崩れ落ちてしまう。その日は、あまりにも突然にやってきた。
その日、掃除当番だった絆は班のメンバーにじゃんけんで負け、ゴミ捨て場に向かっていた。
――最近、ついてないな。
絆はそう思いながら、両手にぶら下がっているゴミ袋を振り回し、ため息をついた。
ゴミ捨て場に袋を積み重ね、荷物を取りに教室に戻ろうと階段に足をかけた時、どこからか声が聞こえた。
絆が不思議に思い、辺りを見渡すが……誰もいないようだ。
しばらく聞き耳を立てていると、その声が廊下の一番端の空き教室から聞こえている事がわかった。
しかし、この教室は選択授業の時しか使わないはずだ。なぜそんな教室に人がいるのか。
好奇心を駆り立てられた絆は、少し開いている扉からその教室の中を覗いた。