紡歌<ツムギウタ>
「私はツキではない。天に住まう者、神だ」
「……神?」
キズナには、全く状況が飲み込めなかった。
なぜ、ツキの中に神が現れる?それとも、ツキはもともと神だったのだろうか……?
神と名乗るツキは、キズナの疑問を読み取ったかのようにゆっくりと話し始めた。
「死神の使いは、もともと私が創ったもの。当然、私の意識を入れることも出来る。そして……死神が全てを思い出した時、私は使いの体を借り、死神に選択を促す」
「……選択?」
そのような話を聞いたことがないキズナは、不思議そうに首を傾げる。そんなキズナに向かって、神が静かに口を開いた。
「お前は全てを思い出した。全ての生前の記憶を取り戻し、その罪を悔いた者は2つの道を選べる。このまま死神を続けるか、天に還るか。……お前の選択は?」
「死神を続ける?思い出した死神は、みんな天に還るんじゃ……」
「少数だが、全てを思い出しても死神を続けている者もいる。彼らがそれを望んだから。……お前の友人、ソウマもその一人だ」
「ソウマが?」
――ソウマの話なんて聞いたこともなかった。まさか、すでに記憶が戻っていたなんて。
驚きを隠せないキズナに、神が静かに言葉を発した。
「さぁ、お前にも選択の時が来たのだ。お前の選択は?」
キズナは少しの間黙って考えていた。……が、やがて遠慮がちに神に向かって頭を下げた。
「しばらく、時間をください。少し考えたいの」
神は観察するようにキズナを見つめると、そのキズナの願いを聞き入れた。
「……いいだろう。ただし期限は1時間。今のお前にはあまり時間を与えない方が良いだろう。余計なことを考えぬよう。その間に結論を出すがいい」
そう言うと、ツキの中にいる神は静かに目を閉じた。そして、再び目を開けた時には……尻尾を3本ピンとたて、丸い目をした元のツキに戻っていた。
ただ立ち尽くすキズナの頭には、色々な思いが巡っていた。そして、その中でも一番強い思いの先は……
やはり、記憶を取り戻す前に声を掛けてきた女性。