知らなかった僕の顔
「ごめん、下手くそだ」
僕は、辛抱強く待っていてくれた彼女に謝る。


森若ちゃんは、いつもは完璧に塗られているはずの右手を見つめ「うん、上出来」と言った。


「左手はもっと頑張りますんで!」

「任せたよ」
森若ちゃんが笑う。


結局僕に進歩はなく、似たような出来の左手を申し訳なく思った。

森若ちゃんは、そんな不格好な両手の爪を満足そうに眺めて、ふーっと優しく息を吹きかけた。


ふいに襲ってきた、抱き締めたいという衝動を抑えて、僕はインディゴブルーの彼女の爪に嫉妬した。


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