知らなかった僕の顔
いつもだいたい同じ時間に帰ってくる森若ちゃんが、今日に限って少しだけ遅れて帰ってきた。


たった10分遅れただけだ。

それなのに僕は、少し刺々しい口調で言った。


「なんで遅かったの?」

「え?」
森若ちゃんは、部屋の時計を見た。


「ホントだ。ちょっと遅れちゃったね」
笑顔を見せて、森若ちゃんが答えた。


大好きな笑顔が、今の僕には苦しかった。


たかが10分のことを責めるように言う自分が嫌だった。


それでも僕は、口調を変えることが出来なかった。

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