知らなかった僕の顔
「じゃあ、最近のことじゃないんだね。アパートには、しばらく帰ってないし」

森若ちゃんは、右の手首をかえし、丸めた指の爪を見つめながら言った。


「中年の男の人と一緒にいたって聞いたんだけど、誰?」

「わかんない。誰のことだろう」
森若ちゃんは、感情のない声で言った。


僕は、自分がとても嫌な聞き方をしているのはわかっていた。


でも森若ちゃんも、嘘をついていた。


普段嘘をつかない人の嘘は、僕にでもすぐにわかった。


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