知らなかった僕の顔
居酒屋ではほとんど黙りこくっていた僕らなのに、今はふとした沈黙ですら戸惑う僕がいる。


簡単なのは、長谷川とさなえちゃんだけじゃないのかもしれない。


僕だってこんなに早く森若ちゃんを意識し始めている。

彼女のことをまだ何も理解していないのに。


僕が過去の恋愛から学んだことは、相手を自分勝手に美化しちゃいけないということだ。


自分の中の理想からくる妄想を相手にあてはめて、目の前でおきる現実がその理想と違えば幻滅するなんて、一人よがりの迷惑でしかない。


がっかりされた身である僕は、それでも本当は薄々気づいていた。


そのバカみたいな幸せな妄想こそが、恋の醍醐味の一部であるという、やっかいな事実を。
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