知らなかった僕の顔
「ぷはーっ」

バイトの阿部ちゃんが、大げさに息を吐く。


明美さんが僕らから離れて店の奥へ移動しても、明美さんの残す匂いは濃密に漂って消えない。



「今日はまた、いちだんとだね」
レジの前にいる阿部ちゃんは、むっつりとした顔で僕に言った。


僕はプリンに付けて渡すスプーンの在庫を数えながら「そうだねー」と答える。

「いや、マジ臭いんだけど。これってある種の暴力だと思うよ、私は」


「まあ、そう怒らないで。ウンコの匂いじゃないんだからさ」


「ウンコであってたまるか!!」


ファンシーなケーキ屋でする会話じゃないが、客が誰もいないのでセーフだ。

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