知らなかった僕の顔
キュウリを拾い食い
僕は、優柔不断で小心者のくせに、人からの誘いをわりと平気で断るようなところがある。

うだるような暑さの夏の日、持て余した暇は、僕の頭をおかしくさせた。

一人暮らしの安アパートの部屋は、ゆで上がっていた。

開け放した窓からは、殺人的な熱風がゆるく吹くばかり。

「猛暑…大人げないよ」呟いてみた。

居るも地獄、出るも地獄。
こんな時、誰かが僕を「海にでも行かないか」と誘ったとする。

行かないな。
まず行かないな。

爽やかに海と戯れることよりも、小汚いこの部屋で一人で居ることを選択してしまいがちな僕だもの。

動かざること山のごとし。

半裸のままの朦朧とした頭で、ただアホのようにソファに座り微動だにしない姿は、哲学的に見えたかもしれない。

そんなわけないよ。

恐ろしい程の無駄な時間。
世の中の無駄の大半は、大学生の夏休みが引き受けているのではなかろうか。

とにかく今考えられる精一杯のことは、座りっぱなしの合皮のソファが、汗でヌルヌルして気持ちが悪すぎるということだけだ。

窓の外から聞こえるセミの大群の鳴き声は、嫌がらせとしか思えない。

「徹子の部屋」のテーマ曲が流れる。

あぁ…今日のゲストはセミなのかぁ…

違う!
僕の携帯の着信音だ。

携帯の画面には、「長谷川」の文字。

大学で同じサークルのサッカー研究部に所属する、長谷川からの電話だ。


「もしもし?宮田?お前さ、彼女できた?」

「いきなり何だよ」

「いや、まあ、いてもいなくてもどっちだっていいんだけどさ、今晩合コンに来てくれ」

「人数合わせに?」

「そうそう。てか、お前って、なぜか女ウケいいからさあ。かと言ってガツガツしてないじゃん?いると地味に便利なんだ」

「ああ…うーん……長谷川…。正直、もんのすごぉーっく、面倒だ。今は1ミリも動きたくない心境なんだ」

「可愛いい子来るぞ」

「…今の僕には、全員豆腐に見えるかも」

「宮田、俺は今お前に、運命を左右するパスを出しているのかもしれないんだぞ」

スルーしたい…。

断るのさえ面倒になり、結局僕は承諾した。
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