知らなかった僕の顔
彼女たちのことについて、ほとんどは、さなえちゃんが話していた。

森若ちゃんは、たまに相づちを打ち、合間に目を閉じてコーラを飲んでいた。


彼女たちは、僕らの大学の近くにある、美大に通う学生だということがわかった。

「へぇー、美大かぁ。なんかいいなぁ。知的指数が高い気がして」
長谷川がデレデレした顔をさなえちゃんに向けて言った。

「二人は、同じサークルの仲間って言ったよね?どういうサークル?」
さなえちゃんが聞く。

「んーと…サッカーをね…」

「サッカーやるんだ?私、体育会系って好きだな」

「いやー…じゃなくて、サッカー研究部…。サッカーの試合を観戦して、選手たちを評価するっていう…そういう活動なんだ…」
長谷川の声が小さくなっていく。

今の長谷川の気持ちがわかる気がした。

僕らは、サッカーを熱く語るけど、結局は観てるだけだというコンプレックスがないわけではなかった。

さなえちゃんは、明らかにがっかりした顔で「それって楽しいの?」と言った。


「楽しいよ」


答えたのは、森若ちゃんだ。

ええっ?森若ちゃん?
ナイスアシスト?


聞くと森若ちゃんも、サッカー観戦が趣味で、デコというポルトガル代表選手のファンだと言う。

いいぞ森若ちゃん!

ベッカムでもロナウジーニョでもなく、デコが好きだなんて。


「ツウ好みだね」
僕は、森若ちゃんの目を見て言った。

「誰が好き?」
森若ちゃんは、サッと目をそらして僕に聞いた。

「…フィーゴかな」
僕は、同じくポルトガル代表選手の名前を挙げた。


「渋いね」
森若ちゃんが、笑った。



ああ、まいったよ。
こんな可愛いい笑顔になるんだ。


フィーゴも好きだけど、本当はジダンが一番好きだった。

僕は、フィーゴと答えた自分を優しく撫でてあげたい気分になった。

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