知らなかった僕の顔
僕らは、自分たちのバイト先の話をした。


森若ちゃんは偶然にも、僕のアパートからそう離れていない、老舗の靴屋で働いていた。


「でもね、あそこの靴屋さん、秋にはお店閉めちゃうの」

「そうなんだ…実は、今履いてる靴、前にその店で買ったんだよ」
僕はテーブルの下から足を出し、底の減ってきた赤のナイキのスニーカーを森若ちゃんに見せた。

「おぉ、いい感じで履きこんでるねぇ。…これって私だけかもしれないけど……新品のスニーカーって、履いててなんだか照れない?」

「あーっ、わかるわかる。早く汚れないかなって、ちょっと思うもん」
僕も同感だった。
スニーカーは、履き続けると味がでる。

森若ちゃんは、満足そうに頷いている。


「でも、そっかぁ…あの店なくなっちゃうんだ…森若ちゃんのバイトは、いつまでなの?」

「夏休みまでと思ってたんだけど、秋までいてくれって頼まれたの。ほら、閉店セールとかで忙しくなるから。でも夏休み後は授業があるから、バイトは夜間のシフトになると思う」

「偉いなぁ…森若ちゃんは」

「宮田くんだって、ケーキ屋さんで頑張ってるじゃない」


僕は…頑張っているのだろうか?


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