知らなかった僕の顔
森若ちゃんが注文した、「酔ってけ屋名物・スペシャルサラダ」は、待てども来ない。



森若ちゃんは、店員の手の空くのを待って、遠慮がちに問い合わせた。



対応した店員は、忙しさにイラついた険しい顔を隠そうともせずに「すぐにお持ちします」と無愛想に言った。

おまけに、まだ少し残っている、森若ちゃんのコーラのグラスを何も言わずにさげた。

飲食店で長い髪を束ねようとしない女の店員は、ドスドスと音を立て厨房へ向かう。



嫌な気分だった。

僕は、ただひたすらに嫌な気分でいるだけ。

そばで聞いていただけ。

こんな時、冗談のひとつでも言って笑い飛ばす、しなやかな強さを僕は持っていない。


「なんだよなー、あの店員」
長谷川が、おどけたように言った。


僕は、なんとなく森若ちゃんの顔を見ることができなかった。

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