奈良の都の妖しい話
壁の向こうの空
黒矢が唐に立ってから半月が過ぎた。

「ふぅ…。」

(早く、三年が経たないかな…)

「妃、どうした?」

「あ、東宮様……東宮様こそ、お顔の色がすぐれないようですよ…。」

「いや…大丈夫だ…。妃の方こそ、何かあるのではないか?」

「い、いえ。」

「そうか…。あ、これを。」

東宮は美羽子に箱を手渡した。

「これは…?」

「練香。伽羅だ。」

「えっ、これを私に?」

「ああ。」

「ありがとうございます…!」

「良かった…それでは今宵に…。」

「はい。」

(良い香り…優しいお方だわ…東宮様は…。)

東宮がさった後、侍女たちの話声が聞こえてきた。

「ねえ、知ってる?」
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