奈良の都の妖しい話
やがて、夕膳等を済ませ二人は床についた。

が、黒矢は寝付けず、静かに桃の木の下へ行った。

(桃の花…姫が好きな…。かつて何度も見たあの木は今も残っているだろうか…そして……また姫と見ることは……叶うだろうか…。)

黒矢は軽く息を吐いた。

「………白華。」

「黒矢、こんなところに居たのか。」

「ああ。…ん?お前、その頬どうした?」

「…何も聞くな…。」

「…ああ、そういうことか。」

「勘良すぎるだろ…。」

「そうか?」

「そうだ。」

「……。」

「……綺麗だな、桃。」

「ああ。……桃花応に咲くべし我が故郷…」

「黒矢…。」

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