奈良の都の妖しい話
黒矢は風にあたり、気を落ち着かせようとした。

(…俺は…今まで姫の側にいれるだけで良かった。…いや、いつしかそう思うようにしていた。…だから…その分押さえてきた感情が溢れてしまいそうで……怖い……。)

黒矢は瞳を閉じた。そして、少し弱い風が頬を撫でたとき、自嘲気味に苦笑した。

(…情けないな…怖いだなんて…どうしてこんな女々しいことを…)

「黒矢っ。」

「………姫…。」

「あ、あれ?どうしたの?」

「え?」

「呆けた顔して。」

「……。」

「冗談よ。」

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