奈良の都の妖しい話
「…様…姫様…!」

「…う、あっ…!…ここは…。」

「良かった、お気づきになられて。…ここは貴女様がお倒れになられていた場所の近くにある厩舎です…急に雨が降ってきましたから…。」

「そう…あの、貴方は…?」

「申し遅れました、私は貴女様の父宮様に仕える、舎人の火戸也です。」

「火戸也、私の側には、他に誰かいた?」

「…いいえ。すこし離れた森に狼がいたくらいです。」

「黒矢…!?」

「え?」

「あ、何でもないわ。」

「…雨が止みましたね。では、参りましょう。」

「何処に?」

「何を仰せになりますか。貴女様のお屋敷にですよ。」

「…!」
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