魔女の報酬3~封呪の守り人~
 そんなことを言うと、母は。

「それは、修行不足」と笑うだけだし、飾りつける当の女官たちに言えば、いざというときなどありはしないし、もし、あったとしても殿方が守ってくれると言う。

 しかし、いざというときを、起こしてくれちゃうのは、その当の殿方だったりするのだ。着飾って、すましていればちゃんとたおやかな美少女に見えてしまうのが、シャリアの不幸だった。

 しつこく言い寄ってくる男どもを笑顔でかわし、手や足を出さないためには、ものすごい忍耐力を必要とした。シャリアもまたウィルランドの正統な王女ではあるが、草原の民として自由に育った娘だった。それだけにこんな堅苦しい生活を毎日こなしている、父や兄にシャリアは脱帽するしかない。

 父王はいつものあのにこにこ顔と奇矯な言動で人を煙に巻いていくし、兄王子も、宮廷では氷の貴公子という異名をとるほどの鉄壁の無表情と無感動ぶりで、人に気持ちを悟らせない。

 どっちもシャリアには出来ない芸当だ。

(それにしても、お兄様が他人にあんなに執着するのを初めて見た)

 シャリアは兄と離れて草原で育ったが、ときには宮廷で暮らしたこともある。だから、あの兄が人や物にあまり執着しない質だ、と言うことくらいは知っている。

 それが、あの少女への傾倒ぶり。
 掌中の珠のように大事にしているのだろう。端から見ていてもよくわかる。

 きらわれるのが怖さに、ろくに手も出しかねているようだった。

「まだ抱いてないの?」

 と聞いたときの、兄の慌てぶり。
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