魔女の報酬3~封呪の守り人~
 何事にも動じないと言えば聞こえはいいが、要は人間関係に淡泊な兄には、よい傾向だとも言える。

 ただ、実の妹が抱きついたくらいで、嫉妬をあらわにするのは、それはそれで問題がある。今まで特に興味をよせる対象がなかったのだから、その反動かもしれないけれど。

(あれで他の男にでも触れられでもしたら血の雨がふるかも。苦労しそ、メディアちゃん)

 シャリアはどうにも口元がほころぶのがとめられない。
 無理もないと思う。

 燃え盛る炎を思わせる少女。
 見事なまでに赤い髪、緑の瞳に見え隠れしていた激しい気性。

 小さな体に触れた瞬間にわかった、秘められた強大な力。
 フィアールの民ならば、惹かれずにはいられないだろう。
 炎を愛した創世の女神の民ならば。

(あの子、草原に生まれなくてよかったかも)

 激しい争奪戦がたやすく想像できる。
 自分も男だったら、絶対にほうってはおかないだろう。

「姫様、まだ入ってるんですか」

 湯殿の外から、女官長の呼ぶ声がする。

「もう、ゆっくり入らせてよ」

 ざばり。
 上気して紅く色づいた美しい裸身を惜しげもなくさらして、シャリアは湯船から立ち上がる。

 濡れた銀の長い髪が肩に背に流れ、光る滴を落としていく。

「あれ」

 シャリアは思わずつぶやいた。
 世界が回っていた。
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