魔女の報酬3~封呪の守り人~
 それには、通常の石とは桁外れの力が宿っていた。
 炎晶石は、フィアールの中でも純粋な血を引くと言われるもの、草原の一族にはめずらしい、銀の髪と青き瞳を持つものにしか反応しないと言う。

 フィアールの後継者と血の縁のあるものなら他にもいたのに、異国の地に嫁いだ王妃がわざわざ草原に戻らねばならなかったのは、炎晶石を使う能力故のことでもあった。

 だから、その草原の姫にして、母の薫陶を受けて育ったシャリア姫なら、ロランツ王子よりは足手まといにはならないかもしれない。あるいは役に立ってくれるかもしれない。

 だが、あくまでかもしれないという段階に過ぎない。
 フィアールの力の質は、通常の魔法使いのそれとは大幅に異なる。力の源がどこにあるかという問題だけではない。

 彼らにとって炎晶石の力をふるうことは、一種の秘蹟である。
 そう簡単に使いはしないし、ましてや彼らはよそ者を嫌う。

 文献には伝えられていても、フィアールの一族の力について、いや炎晶石の実在の確認がとれたのもつい最近のことにすぎない。

 彼らの力の全容をつかみきっているとは、とても言える状態ではない。
 これでは、当てにしていいものなのかどうなのか、さっぱり見当がつかない。

 しかも、こんな状況で、石の力を操つることができると言っても、シャリア姫のようなうら若き乙女を、何が起こるかわからないところにつれていくなど、やはり問題外だった。

「フィアールの力のことは私もいくらかは存じあげています。けれど、危険なことになるかもしれないところに、姫君をお連れするわけには参りません」

「ラムルダ殿の言うとおりだ」

 しかし、二人の説得にシャリア姫はうっすらと笑ってみせると、とっておきの手を提示した。

「あんまりわからないことを言うと、お父様に言いつけるわよ」

「シャリア、そんなことをしたら、父上までついてくるぞ」

 即座に返ったロランツの答えに、思わず王家ご一行様を引率する自分という図を想像して、ラムルダは頭痛を覚えた。王子様、お姫様だけでも頭が痛いのに、そのうえさらに王様がくっついてくる事態なぞ、なにがあろうと絶対に避けたかった。

「それがいやなら、私も連れていくこと、ねっ?」

 片目をつぶってみせる草原の姫に、ラムルダはあきらめのため息をついた。

 時が惜しい。
 これ以上、彼らを説得している暇はなかった。
< 54 / 71 >

この作品をシェア

pagetop