魔女の報酬3~封呪の守り人~
「ぼく?」
少年は首を傾げる。柔らかな白い羽毛の中に埋もれたようなその顔は、七、八才くらいのかわいい少年のものに見えるが、首を傾げる様はやっぱりヒヨコのようだったし、足なんかは完全に鳥類独特の硬く鱗状になっていて、とても着ぐるみには見えない。
「ぼくはディ。王様にあなたの世話を命じられたんだ」
「王様?」
「うん、夜の王」
「って、まさか、あの黒い翼の人さらい野郎!?」
「人さらい野郎って酷いなあ。けど、王様は大きくて真っ黒い翼をもっておられることは確かだよ。夜の闇を切り裂いて、どこまでもどこまでも飛んでいける力強き翼の持ち主」
ふわふわヒヨコ少年は、どこかうっとりとした調子で続けた。
「そして、この魔界の支配者」
「魔界っ! いったいどこの魔界だっていうのよ?」
さすがに驚いて声の大きくなったメディアに、少年は紅い瞳をさらに丸くした。
「魔界は、魔界だよ。ぼく、薬とってきますね」
さっさときびすを返したヒヨコ少年の後ろ姿を見送りながら、漠然とメディアはつぶやいた。
「魔界……」
辻褄は合うのだ。夜の王と名乗った青年も、あのヒヨコ少年もたしかに異形のものだ。『黒魔法の世』に、人間を改造して作り出されたと思しき生物のように見えた。彼らがいるとするならば、魔界だろう。
けれど、魔界は封じられている。行き来は出来ないはずなのに。
どうやって、魔界まで連れて来たというのだろう。
あの青年に捕まえられたとたんに、なぜか意識を失った。
どうやってここに来たのかどころか、ここがどこなのかすらもわからない。
気を失う寸前、とっさに青年の黒い翼から羽根を引きちぎって、母の髪と一緒にバルコニーに落としてきた。あれに気づけば、ラムルダがなんとか探して出してくれるだろう。ここが魔界などではなければ。
メディアはぎゅっと目を瞑った。祈りをこめるようにその名を呼んだ。
もっとも愛しきものの名を。
(ロランツ)
少年は首を傾げる。柔らかな白い羽毛の中に埋もれたようなその顔は、七、八才くらいのかわいい少年のものに見えるが、首を傾げる様はやっぱりヒヨコのようだったし、足なんかは完全に鳥類独特の硬く鱗状になっていて、とても着ぐるみには見えない。
「ぼくはディ。王様にあなたの世話を命じられたんだ」
「王様?」
「うん、夜の王」
「って、まさか、あの黒い翼の人さらい野郎!?」
「人さらい野郎って酷いなあ。けど、王様は大きくて真っ黒い翼をもっておられることは確かだよ。夜の闇を切り裂いて、どこまでもどこまでも飛んでいける力強き翼の持ち主」
ふわふわヒヨコ少年は、どこかうっとりとした調子で続けた。
「そして、この魔界の支配者」
「魔界っ! いったいどこの魔界だっていうのよ?」
さすがに驚いて声の大きくなったメディアに、少年は紅い瞳をさらに丸くした。
「魔界は、魔界だよ。ぼく、薬とってきますね」
さっさときびすを返したヒヨコ少年の後ろ姿を見送りながら、漠然とメディアはつぶやいた。
「魔界……」
辻褄は合うのだ。夜の王と名乗った青年も、あのヒヨコ少年もたしかに異形のものだ。『黒魔法の世』に、人間を改造して作り出されたと思しき生物のように見えた。彼らがいるとするならば、魔界だろう。
けれど、魔界は封じられている。行き来は出来ないはずなのに。
どうやって、魔界まで連れて来たというのだろう。
あの青年に捕まえられたとたんに、なぜか意識を失った。
どうやってここに来たのかどころか、ここがどこなのかすらもわからない。
気を失う寸前、とっさに青年の黒い翼から羽根を引きちぎって、母の髪と一緒にバルコニーに落としてきた。あれに気づけば、ラムルダがなんとか探して出してくれるだろう。ここが魔界などではなければ。
メディアはぎゅっと目を瞑った。祈りをこめるようにその名を呼んだ。
もっとも愛しきものの名を。
(ロランツ)