サヨナラのカタチ




付き合い始めて2年が経とうとしている頃からだった。

翔馬が私に興味を示さなくなったのは。


髪を切っても気づかない。

いつもと違う香水をつけても気づかない。


前は違っていた。


髪を切れば気づいてくれたし、

香水も気づいてくれた。

なんなら鞄を変えたことまでも気づいてくれていた。


そんな些細なことが、

私はどうしようもなく、

嬉しかったのだ。


翔馬はそんなこと知らないだろうけど。

だけど、翔馬に気づいてもらうたびに、

くすぐったくも、温かい気持ちになっていた。




『ねえ?赤ちゃん、男の子かな?女の子かな?

あなたはどっちがいい?』


『俺?どっちだっていいよ。

俺とお前の子が元気で生まれてくれさえすればね。』


そんな会話をしながら若い夫婦が私の横を歩いて行く。




…いっそのこと、子どもでもできた。

そう言ってやろうか。



そしたら翔馬はどんな反応をしてくれるのだろう。


喜んでくれるのかな。


そしてそれがウソだと分かった時、

翔馬は笑って許してくれるかな。


私が寂しかったと、気づいてくれるのかな。



そんなことを考えてふっと笑ってしまった。


だって、こんなウソ、何にもならないんだから。

どうせ、私自身が傷つくだけなんだから。


それに…私の中で、答えは決まっているのだ。

今後、翔馬とどうしていくか。

という答えがもうすでに、私の胸の中にはあった。


だけど、それが本当に正しい答えなのか。

自信はまったくと言っていいほど、ない。








< 30 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop