サヨナラのカタチ
理子が出て行って1時間。
俺はまだ、イスに座ったまま、動けないでいた。
湯気まで出していたハンバーグは
もう表面のソースが固まりつつあった。
そして、気づく。
今日の夕飯がいつもより豪勢だったことに。
最近の理子の料理は
めんどくさくなったのか少しばかり手抜きだった。
と、言っても品数が少なかったりするだけで、味はいつだってうまかった。
あ、そう言えば理子はどうしてあんなことを聞いたのだろう。
ふとさっきの会話を思い出す。
――『それ、おいしい?』
こんなこと、聞かれるのが久々で。
思わず、聞き返したんだっけ。
確かー…あのとき、俺がおいしいよ、って言ったら、少し嬉しそうな顔してたっけ。
………あ、そっか。分かった。
理子の顔を思い出して、
俺は悟ってしまった。
理子の料理がなぜ、手抜きになったのか。
それは…おそらく、俺のせいだ。
俺が
『おいしい』
そう、言わなくなったからだ。