サヨナラのカタチ
気づくと俺はベランダに出ていた。
そしてアイツの姿を確認すると
「…理子ー!!」
早朝だということも忘れて思い切り叫んだ。
自分の車に荷物を積んでいた理子が驚いた顔で上を見上げた。
そして俺の姿を確認するとふっと優しく微笑んだ。
多分、あの表情から察すると、
アイツは俺が起きていたことに気づいていたんだろう。
「おはよう、翔馬。
今日は早起きね」
なんつー皮肉なオンナなんだよ、理子。
今日で最後だというこんな日に、どうしてお前はそういうことを言うんだ。
…なんてこと、思わなかった。
だって、こういうことを言うのが俺が愛した理子だから。
「理子!行くなっ!
俺の傍に…ずっといろよ!!」
朝の静寂した街に俺のカッコ悪い切実な言葉が響く。
「ちゃんと、幸せになんなさいよー!!」
…だけど、返ってきたのはこんな言葉だった。
それから理子は
出会ったころと変わらない眩しいくらいの笑顔で俺に手を振ると
車に乗り込み、駐車場を出て行った。
なあ、理子。
せめてもう1度。
聞きたかった。
『翔馬』
そう俺を優しく呼ぶ声を。
―第3話 完―