雪花-YUKIBANA-
「ほんと、うまいなあ。
中華料理屋で働いてるのがもったいないよ。
絵描きを目指せばよかったのに」


ひとり言のつもりで、僕はつぶやく。


すると、眠ったと思っていた桜子の唇が小さく動いた。


「私の夢は、他にあるから」

「君の夢?」


桜子が目を閉じたままうなずいた。


「私はね……、ただ、恋がしたいの。
大好きな人と恋をして、家族になる
――それが私の夢」


「……」


何も、答えることができなかった。

自分でもどうしてだか、分からないけれど。









事件は次の日起こった。


もっとも、マユミの電話で昼過ぎに叩き起こされた時点では、

僕はまだそれを事件と認識していなかったが。



事の深刻さをようやく理解したのは、

出勤して状況を目の当たりにしてからだ。

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