雪花-YUKIBANA-
さすがと言うべきだろうか。

オーナーは事の次第をすでに把握していた。


「うちのコンパニオンを引き抜きやがった、例の店だがな。
どうやら表向きはふつうの会社らしい」


「え?」


「不動産を生業としてるみたいだけど、その裏で風俗業界に参入してきたってくちだ。
たしか、富山商事っていったか」


その言葉を聞いたとたん、顔色を失ったのはマユミだ。

口元に手をあて、充血した眼をカッと見開いた。




「それ……ミドリを囲ってた男の会社だよ」




興奮した頭から、
血の気がひいていくのがわかった。



――ミドリの……前の男?



いや、“前の”だなんて

どうして言い切れるのだろう。


ミドリがその男に執着しているのはわかっていたし、

ちゃんと別れただなんて一言も聞いていない。


頭の中でいろんな事柄がつながってゆく……。



もし、

いまだにミドリは、男との復縁を望んでいるとして。


彼のビジネスに協力してやることが、

復縁のきっかけになると
考えたとしたら――



「……っ」


受話器をとり、ミドリの家の電話番号を押す。


『おかけになった番号は、現在――』

「くそっ!」


叩きつけるように受話器を置くと、僕は肩で息をした。


「……やられた!」

「……」
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