雪花-YUKIBANA-
僕は名古屋に戻った。
知り合いのいない東京でやみくもに探すより、
この土地の方が、コンパニオンのあてもあると思った。
僕はオーナーが言ったように、手当たりしだい女の子に頭を下げてまわった。
知人だろうが友人だろうが、
はては昔の女だろうが。
いい返事がひとつも聞けないまま、
気づけばすっかり夜中。
いくらスニーカーとはいえ、歩きすぎた足はしびれ、靴ズレができていた。
「あ……」
僕はあることに気づく。
桜子――
彼女に、何も連絡をいれず来てしまった。
もう歩きたくない、と悲鳴をあげる足を、
どうにか動かして公衆電話を見つけ出す。
03から始まる、すっかり指になじんだ番号を、ひとつずつ押していく。
『もしもし』
「あ、桜子。俺……」
『拓人?』
遠く離れた街から聴きなれた声が届く。
「ごめん、実は今、名古屋なんだ」
『え?』
「ちょっとね、出張っていうか」
とっさに嘘が出た。
疲れきった体でも、
彼女に心配かけまいと気にするだけの余裕は、残っていたようだ。