雪花-YUKIBANA-
半月ぶり。
けれどもっと久しぶりな気がした。
月明かりもない暗闇で、僕は玄関の鍵をさしこむ。
あまりに静かな夜半だったから、引き戸を開ける音がやけに大きく響いた。
「桜子……?」
電気のついていない、寂寞とした空間に呼びかけてみる。
返事は聞こえなかった。
もう寝たんだろうか。
そっと靴を脱いであがってみると、
居間の薄暗い豆電球の下に、彼女の姿を見つけた。
桜子はなぜかそこに布団をしいて、
どこか苦しそうな寝息をたてていた。
「桜子?」
頬に触れてみる。
熱かった。
ビクン……と体が動いて、彼女のまぶたが持ち上がった。
「――……拓人?」
開いたばかりの瞳がうるんでいる。
それから桜子は、まばたきをやめたように僕を見つめた。
言葉はなかった。
僕らはやっと向き合えたこの時に、
ただ見つめあうことを選んだ。