雪花-YUKIBANA-

ドクン、ドクン、と血液が踊りだす。


まず、手をどの位置に置けばいいのか困った。

ふいに触れてしまうのが怖くて、祈りのポーズのように胸の前で両手を組んだ。


そして異常なくらいの沈黙。

唾を飲む音すらやけに大きく響いて、彼女に聞こえてしまいそうで気まずい……。


「拓人」


名前を呼ばれたかと思うと、次の瞬間には体温を感じた。

僕の胸元に、桜子が体をすべりこませていた。


「お願い……ぎゅっとして」


甘えているような、けれどどこか切ない声でそう言われて、断れるわけがなかった。


僕は彼女の背中に腕を回した。


彼女のやわらかな髪が、僕のあごの下にあった。

彼女という存在が、僕の胸にすっぽりおさまっていた。


抱きしめるのは二度目だけれど、その意味がまったく違っていることに僕は気づいていた。

だってあのときみたいな穏やかな温もりは、ここにない。


桜子……ねえ、どうしてかな。

こんなにも胸が苦しい。


君を抱きしめていることで、

僕の胸は痛いくらいにいっぱいなんだ――……

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