雪花-YUKIBANA-

ふと、腕が冷たいことに気づいた。

見てみると、僕の腕を濡らしていたのは桜子の涙だった。


「ごめん…なさい」

「桜子?」

「ごめんなさい……。違うの、私……、私は、そんな立派な子じゃないの……」


しゃくりあげる桜子の息遣いを、胸に感じた。

僕は彼女の顔をのぞきこんで、その涙をぬぐった。


「桜子、どうした?」

「……っ」

「桜子?」

「私……っ」

「うん」

「拓人のために働いたんじゃないの。そんな……立派な理由じゃないの」

「うん」

「私は……自分のためにっ……」

「何?泣いてちゃ分からない」


桜子は泣き崩れた顔で僕を見ると、

息を震わせながら大きく吐いて、

それから観念したように、
きつく目を閉じた。



「離れたくなかったの」


「え?」


「拓人と、離れたくなかったの。
もしお店をクビになったら、拓人は名古屋に帰るでしょう……?
そう思ったら私」


嗚咽が、桜子の言葉をそこで止めた。
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