雪花-YUKIBANA-
ひどく色あせた、古い一枚の写真。
父の横でたおやかな笑顔を見せる女性が、桜子の母親であることは、すぐにわかった。
柔らかそうにうねった茶色い髪や、色素の薄い肌。
ツンととがった鼻。
小さな唇。
……すごくよく似ている。
けれど、違和感があった。
度の合わないメガネ越しに見る風景のような、
自分の認識とわずかにずれた、違和感が。
その原因はすぐにわかった。
若すぎるのだ。
とても子持ちの女性とは思えないほど、そこに写る桜子の母親は若すぎた。
僕は写真に記された日付を確認する。
19XX年――桜子はおろか、僕さえもまだ生まれていない年。
胸が騒ぎ出す。
僕はまじまじと写真を見つめ、
そして
「――え」
ドクン、という心臓の音を聞いた。
あまりにも大きすぎて、まるで耳元で打ち鳴らしたような心音だった。