雪花-YUKIBANA-
――俺の兄貴…つまりお前の親父と、彼女が出会ったのは、
たしか22年前の春だった。
まるで冬が居ついてしまったみたいな、なかなか気温の上がらない4月で……
公園の屋台で働き始めた兄貴は、花見客が来ないと言っていつも嘆いていたよ。
彼女がその公園に、毎日のように姿を現すようになったのは、
ようやく桜のつぼみが色を添え始めたころだった。
陽気に誘われた近所の勤め人たちが、昼になると弁当箱をさげてやってくる。
そんな中に見つけた、美しい女の人に、兄貴は心を奪われたんだ。
その人はいつも、ひとりで木の幹に腰をおろし、
小さな手作りの弁当を食べ、
時計の針が13時に近づくころ帰っていく。
彼女の名前がリナで、日本生まれのハーフだということを、
兄貴が知るまでにそう時間はかからなかった。
「あの透き通るみたいな目で見られるとな、柄にもなくドキドキするんだよ」
そんなことを、熱に浮かされたみたいな顔で言ってたっけ。