雪花-YUKIBANA-
聞いていたのよりもはるかに、美しい人だったよ。
兄貴が口下手なのは知っていたけれど、
このときばかりは本当に、それをひしひしと感じたな。
リナのことを「きれいだ」とか「かわいらしい」とか、
ありふれた言葉でしか形容してこなかった貴兄が、つくづく愚かな男だと思えた。
「今日は、お別れを言いに来たんです」
ずっしりとした口調で兄貴が言った。
「どういうことですか?」
「もう、俺は、あなたには会えません」
たぶんその言葉は、己に言い聞かすつもりで言ったんだろう。
震える兄貴の肩越しに、彼女の華奢な体が、ますます小さくなっていくように見えた。
けれどリナは懸命に、凛とした姿勢を貫いていたように思う。
「まるで……今生の別れのような口ぶりですね」
「その覚悟です」
兄貴が勢いよくきびすを返したのと、リナが顔を覆いながら走り去ったのは、ほぼ同時だった。
俺はあわてて身を隠した。