雪花-YUKIBANA-
ずん、ずん、と地面を踏みしめながら、兄貴が俺のほうに近づいてくる。
見つかる、
と思ったら、あいつは俺になんか目もくれず、そのまま通り過ぎていった。
俺は呆然と、兄貴の横顔がすり抜けていく様を見ていたよ。
泣いていた、ような気もするな。
けどわからない。
あんなに月の明るい夜だったのに、どうしてか兄貴の横顔だけは、
はっきり見ることができなかった。
それからしばらくして、お前が生まれたんだ。
所帯持ちとなった兄貴はあの公園を離れ、サラリーマンになった。
拓人、お前は彼のことを、どんな父親だったと記憶している?
ほとんど家族にかまってやらない男だったから、さぞかし寂しい思いをしたんだろうな。
けれどな、兄貴はお前たちに、どう接していいのかわからなかったんだ。
責任と道徳心と、自分の感情。
それらの整理ができなくて、あんな父親になってしまったのだと、俺は思う。