雪花-YUKIBANA-

そして……あれはお前が生まれて2年後のことだったか。


用事があって兄貴の会社をおとずれたとき、俺は、自分の目がおかしくなったんじゃないかと思った。


いたんだよ、リナが。


2年前に月明かりの下で見た女の人が、

ねずみ色のスーツに身を包んで、目の前で電卓を打っていたんだ。


「兄貴……あの人は?」


俺はなるべく気持ちを落ち着かせて訊いた。

俺はリナの顔を知らないことになっているから、あからさまに驚くわけにはいかなかった。


「ああ……新しく入った事務員さんだよ」

「きれいな人だな」

「ハーフらしいから……」


そう言った兄貴の顔を見て、まずい、と直感した。

そこにいるのは、父親でもなく夫でもない、ひとりのただの男だったから。



俺はその晩、兄貴を飲みに誘い、頃合いを見て切り出したんだ。


「ごめん兄貴。俺、実はリナを見たことがあるんだ。
……あの事務員さんって、リナだよな?」


兄貴はグラスに唇をつけたまま押し黙って、

それから、堰を切ったように話し出した。


< 209 / 348 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop