雪花-YUKIBANA-
東京へ
20年を振り返る。
不自由の多い人生ではあったと思う。
子供の頃はどうしても、僕は個人ではなく家族の一部で。
たとえその家族というものが、僕に対して心地よいものではなかったとしても、
“子供”はそれを甘んじて受け入れるしかなかった。
だから父と離れ、
数年後に母を亡くし、
初めて個人として自覚したとき
僕は思ったのだ。
――あらゆる不自由は、
他人と混ざり合うことから生まれるのだ、と。
それからはなるべく密な関係を避けて、
求めすぎることも
奪い合うこともなく、
うまく生きてきたはずだった。
なのに。
とんだ真相発覚となった父の葬儀も無事に終わり、
僕は名古屋でいつも通りの生活を取り戻していた。
僕の朝は、世間では夕方と呼ばれる時間帯に訪れる。
太陽ではなく月の下で交わされる、
「おはようございます」
の挨拶にもすっかり慣れた。
風俗店のスタッフ。
かれこれ2年ほど、この仕事を続けている。