雪花-YUKIBANA-
「わからない、って……どういうことだよ。
リナが付き合ってる男じゃないのか?
そうだろ?」
兄貴は何も答えない。
俺の語調は荒くなっていく。
深夜だということも忘れ、俺は叫んだ。
「それ以外に、……それ以外にどんな可能性があるっていうんだよ!」
――俺と兄貴はな、
ふたりっきりの兄弟で、
そりゃあもう子供のころから仲がよかったんだ。
なにかと要領のいい俺に比べ、兄貴の方はバカ正直というか、愚直というか、
とにかくハズレくじを引くタイプだった。
そしてそんな兄貴が、俺は嫌いじゃなかった。
けどな、
結婚生活くらい、うまくいってほしいじゃないか。
ちょっとくらい要領よくこなして、幸せにすごしてほしいじゃないか。
「なあ兄貴。俺は何も知らないし、何も見ていない。
リナなんて女はこれっぽっちも知らない。
だからさ、兄貴も、何もなかったことにしてくれよ。
最初から何事も起こらなかったんだと、そう思って、ぜんぶ忘れてくれよ」