雪花-YUKIBANA-

「わからない、って……どういうことだよ。
リナが付き合ってる男じゃないのか?
そうだろ?」


兄貴は何も答えない。

俺の語調は荒くなっていく。


深夜だということも忘れ、俺は叫んだ。



「それ以外に、……それ以外にどんな可能性があるっていうんだよ!」



――俺と兄貴はな、

ふたりっきりの兄弟で、
そりゃあもう子供のころから仲がよかったんだ。


なにかと要領のいい俺に比べ、兄貴の方はバカ正直というか、愚直というか、

とにかくハズレくじを引くタイプだった。

そしてそんな兄貴が、俺は嫌いじゃなかった。


けどな、
結婚生活くらい、うまくいってほしいじゃないか。

ちょっとくらい要領よくこなして、幸せにすごしてほしいじゃないか。


「なあ兄貴。俺は何も知らないし、何も見ていない。
リナなんて女はこれっぽっちも知らない。
だからさ、兄貴も、何もなかったことにしてくれよ。
最初から何事も起こらなかったんだと、そう思って、ぜんぶ忘れてくれよ」
< 211 / 348 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop