雪花-YUKIBANA-

俺は裸足のまま玄関をおりて、兄貴のシャツにしがみついて懇願した。


なぜか涙が出てしかたなかった。


なのにどうして、兄貴はおだやかに微笑んでいたんだろう。


そういえばあの夜も、月が煌々と輝いていたな。



父親のわからないままリナは女児を出産し、

その子を、桜子と名づけた。


「別に桜の季節でもないのに、なんだってそんな名前に?」


俺の問いかけに、兄貴は無言で笑っていた。

見ているこっちが悲しくなるくらい、幸せそうな笑顔で。


リナが付き合っていた男と、兄貴が同じ血液型だったというのは、やはり不幸なことだろう。

兄貴の方は完全に、桜子を自分の娘だと思っていたけれど。


それからのことは、お前も知っての通りだ。

兄貴の二重生活は、やがてお前たちの知るところとなり、家庭は崩壊した。
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