雪花-YUKIBANA-

けれど桜子の存在をお前に話すことはなかったし、

桜子もお前の存在を知らなかった。


よけいなことは子供には話したくない、と兄貴が望んだから。


今の俺は、そのことを後悔している。


真実のままをもっと早くお前たちに話していれば、まさか20年近くたった今、

こんなことにはならなかったんだ――













「――拓人?」


迷子になった僕の意識を、彼女の柔らかい声が呼び戻す。

スーパーの袋をさげた彼女が部屋の入り口に立っている。


時計を見る。

夕方5時。

けれど太陽は、まだ明るい。


「どうしたの?そんなとこ座り込んで、ボーっとして」

「……」

「拓人?」

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