雪花-YUKIBANA-

テーブルの上に買い物袋を置いて、彼女が僕の名前を呼んだ。


僕は異国の言葉を扱うようなたどたどしさで、おかえり、と小さくつぶやいた。


「うん、ただいま」


当たり前のように返ってくる返事。


「ねえ、何かあったの?落ち込んでるみたいだけど。
……あ、わかった。食事の用意に失敗したんでしょ?」

やっぱりねー、
と軽快な口調で言って、桜子はスーパーの袋をまさぐる。


「大丈夫だよー。こんなこともあろうかと食材買ってきたから。
ほら、玉葱でしょ、卵もあるし」


まるでシルクハットから次々に物を出してみせるマジシャンのように、

彼女は食材を取り出しては、得意げな視線を僕に投げる。


「それにね、鶏肉も安かったんだ」

「……桜子」

「親子丼にしよっか。それかオム――」

「少し、離れよう」


……ライス。

という声が心細げに消えた。
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