雪花-YUKIBANA-
鶏肉が白い手をすり抜けて、
べしゃりと床に落ちる。
そんなドラマみたいな光景を見ながら、僕はなぜか冷静な頭で、
これが卵じゃなくて良かった、なんて思う。
「あ……親子丼で、いい?
すぐに作るね。
拓人、もうすぐ出勤でしょ?急がなきゃね」
弾かれたように立ち上がると、桜子はビニール袋をつかみキッチンに駆けこんだ。
肝心の食材はほとんどテーブルに置いたまま。
鶏肉にいたっては、床の上でしょぼくれたように転がっている。
「桜子」
僕は言う。
「こっち来て、聞いて」
拒絶の言葉の代わりに、荒々しい息が聞こえた。
「俺はさ……、けっして、別れようって言ってるわけじゃないんだ。
桜子を想う気持ちに変わりはない。
ただ……」
「ただ、何?」
桜子はゆっくりと振り返り、居間とキッチンとの境界線から僕を見下ろす。
その瞳は、悲しみや憤りや、
うずまく激情で見開かれている。