雪花-YUKIBANA-
「もうあきらめたら?」
ニットの袖をいじりながら、マユミが言った。
「桜子ちゃんだって子供じゃないんだし、彼女自身の意思で出て行ったんでしょ?
それに、これだけ探しても見つからないってことは、どこか遠くにいるのよ」
僕は彼女の言葉を無視して、ビールをいっきに飲み干す。
無茶な飲み方をしたせいで器官が刺激され、激しく咳きこんでしまう。
そんな僕の背中をさすりながら、マユミは「ところで」と言った。
「そもそも店長、なんで桜子ちゃんに距離を置こうなんて言ったの?」
「……」
思いつめた目で沈黙した僕に、マユミはあきらめのため息をついた。
にぎやかな居酒屋の店内で、ここだけが別世界であるかのように黙り込む。
マユミが僕の背中をさする。
僕の口からコホ、コホ、と断続的に咳がもれる。