雪花-YUKIBANA-
「それ、もういい?」
義広はゴミ箱に紙コップを捨てると、僕を見下ろして言った。
「……え?」
「それ」
と言って、彼の人差し指が僕のコップを指す。
「ああ……うん」
僕から空のコップを受け取ると、義広はそれをゴミ箱に落とす。
カサッという音が、小さく響いた。
「さっきの話さ、あんたに言おうか言うまいか、正直悩んだ」
僕に背を向けて歩き出し、義広は言う。
「けど、医者の卵としては、黙っておくことはできなかった」
医者の卵、という言葉を発するとき、彼の声が少し照れくさそうに上ずった。
そして僕の方を振り返り、
「俺、今年こそ医大卒業するって決めたから。姉貴のダンナに嫉妬するのはもうやめたんだ」
そう言って、桜子の病室の方へと歩き始めた。
僕も立ち上がって義広のあとに続いた。