雪花-YUKIBANA-
彼女は豪快に鼻をすすると、ぶっきらぼうな口調で言った。
「……言っとくけど、私、つわりがひどいんだからね。
なかなか治まらないんだから」
「だったらなおさら帰ろうよ」
「家事とか、料理とか、前みたいにできないかもしれないよ?」
「いい。俺がやるから」
「できるの?料理は……?」
「ひとり暮らしが長かったって、言ったじゃん」
「うん」
「それに、好きな人のために作る料理は、美味しいに決まってるからね」
「……うん」
病院の狭いベッドの上で、僕たちは色んな話をした。
そして、2ヶ月遅れのバースデープレゼントを、ちゃんと桜子の手から受け取った。
「……靴?」
案外重いと思ったプレゼントの正体は、黒い革靴だった。
濡れたような艶を放つ漆黒。
どうして、革靴なんだろう……。
僕がスニーカーしか穿かないことは、桜子だって知っているのに。
「だからだよ」
と彼女は言った。
「拓人、前に話してたよね。革靴はお父さんのイメージって」