雪花-YUKIBANA-

「3ヶ月前に、叔父さんから父のことを聞いて……信じたくない気持ちでいっぱいでした」


僕は廊下の壁にもたれて座り込み、ぽつぽつと話し始める。

普段あまり意識してみることのない天井が、視線の先に広がる。


「どうしていいのか分からなくて、苦しくて……、距離を置きたいって、桜子に言いました」


「……」


「けれどそれで桜子が出て行って、僕は、彼女なしで生きることを怖いと感じた。
もうあんな想いはしたくないんです。
もう、彼女を失いたくはない」


「もしも」

と叔父が言葉をはさんだ。


「もしもお前たちの血が、本当に繋がっていたとしたら……?」


何度も、何度も考えた。

“もしも”という可能性。

そのたびに体中が冷たくなるほどの恐怖を感じた。


けど、それ以上の恐怖を僕は知ってしまったんだ。


彼女のいない世界――心が干からびて風化していくような、

何もない世界。

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