雪花-YUKIBANA-
僕と桜子は顔を見合わせ、そしてコバの胸にパンチを食らわす。
「やるじゃん!コバ」
「気持ち伝えたんだねー!」
コバは僕たちにさんざん叩かれながら、
「痛いっすよ!」
なんて叫んで幸せそうに笑う。
そんなコバを車の中から、彼女が柔和な笑顔で見守っている。
僕たちは張り切って後部座席に乗り込んだ。
「初めまして、大塚桜子です」
まず最初に挨拶したのは桜子だ。
「コバの友人の成瀬拓人です」
続いて僕も頭を下げる。
彼女は助手席から体を乗り出して、あかぎれのできた手を僕たちに差し出した。
「永井亜季です。よろしくね」
握手を交わした手のひらから、温もりが伝わる。
苦労している手――けれどその苦労すらいとわない、
守るべきものを持った母の手。
亜季さんはコバよりもいくつか年上で、いかにもやさしいお姉さんといったタイプの女性だった。
手間のかからなさそうなショートヘアは、自分よりも大切なものが他にあるという、潔さの表れに見えた。