雪花-YUKIBANA-

僕たちの顔から思わず笑みがもれる。


イチョウ並木のトンネルを50メートルほど抜ければ、

そこは彼女の慣れ親しんだ場所


――和食がおいしい、中華料理屋。


「なんで……?」

「いいから。さっ、早く降りろって」


僕は桜子の手を握り、車の外へとうながした。


吹きつける風の冷たさすら気づかない様子で、彼女は並木道の向こう側をただ見つめる。


「コバがさ」

「え?」

「コバが、パーティはあのお店でやろうって企画したんだ。
店長さんに連絡したら、ご厚意で貸しきりにしてくれて」


桜子の視線がコバを向く。

コバは照れくささを微笑でごまかして、こくりとうなずいた。


「……」


彼女の瞳に少しだけ涙がにじんだ。

寒風に一瞬で乾かされてしまうくらい、ほんの少しだけ。

< 261 / 348 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop