雪花-YUKIBANA-
僕たちの顔から思わず笑みがもれる。
イチョウ並木のトンネルを50メートルほど抜ければ、
そこは彼女の慣れ親しんだ場所
――和食がおいしい、中華料理屋。
「なんで……?」
「いいから。さっ、早く降りろって」
僕は桜子の手を握り、車の外へとうながした。
吹きつける風の冷たさすら気づかない様子で、彼女は並木道の向こう側をただ見つめる。
「コバがさ」
「え?」
「コバが、パーティはあのお店でやろうって企画したんだ。
店長さんに連絡したら、ご厚意で貸しきりにしてくれて」
桜子の視線がコバを向く。
コバは照れくささを微笑でごまかして、こくりとうなずいた。
「……」
彼女の瞳に少しだけ涙がにじんだ。
寒風に一瞬で乾かされてしまうくらい、ほんの少しだけ。