雪花-YUKIBANA-
「本当におめでとう。元気な子を産むんだよ」
店長さんから手渡された花束はあまりに大きくて、桜子の顔をすっぽりと隠してしまう。
「桜子ちゃんがお母さんになるなんてねー」
ピンとこないわ、と店長の奥さんが言った。
無愛想な彼女はやっぱり今日も無愛想に、僕らから少し離れた場所でタバコを吸っている。
けれど彼女の頭の上で回る換気扇が、妊婦への思いやりを証明していた。
純白のかすみ草に顔をうずめたまま、桜子の肩がわずかに震えた。
「店長……本当にすみませんでした」
「ん?」
「あんなにお世話になってたのに、急にやめちゃって。連絡のひとつも入れないで。
なのに、こんなにお祝いしてもらって……」
店長さんは子供をあやすような顔で微笑んで、ゆっくりと首を横に振る。
「何があったのかは知らないけど、僕たち夫婦は桜子ちゃんのこと怒ってなんかいないからね」
「……」
「君の人となりはよく分かってる。
3年間もうちも働いてもらってたんだから」
ひょろりとした店長の手が、桜子の頭をなでた。