雪花-YUKIBANA-
「それに桜子ちゃんの妊娠を祝うのは、僕らにとって当たり前のことだよ。
まるで自分たちに孫ができたみたいで、嬉しいんだ」
ようやく顔をあげた桜子の目から、涙があふれた。
泣いているのを見られたくないのか、桜子はゴシゴシと目元を拭うけれど、ほとんど無意味だった。
涙を乾かす冷たい風は、ここには吹いていない。
穏やかで、気恥ずかしいくらいに温かいこの店は、どこまでも桜子に涙を流させ続けた。
「ところで」
そう言って店長さんは急に僕の方を見た。
「まさか桜子ちゃんのお相手があなただったとは、驚きです」
僕は思わず苦笑いする。
桜子が不思議そうな顔で、僕と店長を交互に見た。
「え?何?なんで店長が拓人のこと知ってるわけ?」
「うん、ちょっとね」
腑に落ちない表情の桜子をほって、僕たちはテーブルに着く。