雪花-YUKIBANA-

奥さんはカウンターの中で作業しながら、僕らの方を見ずに淡々と言葉を続けた。


「そりゃ不安でしょうよ。女手ひとつで、3人の子供抱えて」


けどね、と奥さんは言った。


「私は子供がいないから、亜季さんが羨ましい。
子供にとって母親は世界にひとりでしょ?
あんたは、あんなに可愛い3人の子たちの“たったひとり”で居続けられるんだよ」


そう言って奥さんはカウンターの上に、さくらんぼとホイップで飾りつけたプリンを3つ出した。


「わあ!やったあ」

「プリンだ!」


子供たちが目をキラキラさせて、カウンターに走り寄る。


奥さんはニコリとも笑わないで、タバコを取り出しながら換気扇の方へと歩いていった。



「……ほんとだね。あの人の言う通りだわ」


亜季さんがつぶやいた。


「分かってたつもりだったけど。
人に言われてハッとするなんて、ほんとは分かってなかったみたい」


そう言って彼女は苦笑いし、こめかみを掻いた。

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